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「ねえ、どうして桜は散ると思う?」
作家である朝霧真紀はある日、自身が書いた探偵小説の主人公・吉野樹に要求され、彼の娘が殺されるという物語の展開を改変する。穏やかな日常を取り戻せたように見える吉野父娘を羨み、かつて父を亡くした真紀は同じ筆で自分の過去をも書き換えようと試みる──
「喪失」は、辛く苦しいもの。一緒にいた時間に帰りたい、別離しない未来がほしい。痛いほどその気持ちはわかります。
けれども大切な人の死を「悲しい」で終わらせてしまって、本当によいでしょうか。その人は、そのときに命を終えたことまで含めてその人ではありませんか。あなたは、その人を喪ったことまでを含めて、あなたではありませんか。なぜって、その別れがひどく辛いのは、あなたがその人と時を共に生きた、その人を心から思った、何よりの証なのですから。
誰かは既に経験し、誰かはいつか向き合う苦しさならば、この作品を以て寄り添いたい。傷ごと自分を抱きしめて、失くしたものを愛おしんで、今ある大切なものをもっと大切にできる、この物語がその支えになれたならば幸いです。